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インディアン・ヨガライフ〜ケーララの村で暮らす Vol.10

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24時間ヨガをする

 滞在当初、私はいつも心に不満を抱えていた。何もかも思っていたのと違う!のである。本当はもっとヨガをディープにできると思っていたのだ、瞑想なんかもしっかり教えてもらえると思っていたのだ。もちろんヨガのレッスンはほぼ毎日あったものの、ごく基本的なポーズをきちんと出来るまで何度もじっくり繰り返し練習させられた。正しい立ち方、座り方、歩き方、腕の伸ばし方、最初のレッスンから続けている開脚のポーズ...パドマ・アーサナ(蓮華座)を正しく座れるようになるまで、延々と練習することもあった。
 
 彼の教え方ははじめから丁寧にアジャストしてくれる訳ではなく、生徒が自分で間違っている所に気づくように仕向ける。だから私がその違いを分かるまで、ずっと同じポーズが続くのだ。私がいつまでも分からずにいると、イライラし機嫌が悪くなった。ある日ようやく、ちょっとした重心の置き方などの差に気が付き、「あ、もしかしてこう?」と試してみると、やっと分かったかという顔をされる。
 
 もちろんそうした基本的なアーサナがきっちり出来てこそ、難易度の高いアーサナに進めるのだが、私には数ヶ月も滞在するのだから帰っきて周りがびっくりするような進歩を遂げたいという欲があった。しかし基本的なアーサナの練習が終わると、買い物や洗濯といった日々の雑用が待っていた。
 限られた時間で出来る限り有益な事をする、普段の旅でいつも私が考えていることであり、今までの人生でもそうであった。心の中で常に「あれをしたい、これもしたい」と考えていて、それが叶えば満足であり、叶わなければその要因となるものに八つ当たりした。今回その矛先は師であるジョシーに向かい、思ったとおりに教えてくれない師に私は不満や疑いを抱くようになった。多分はじめから師はそれをお見通しであったのだろう。ついうっかり愚痴をこぼしたり、落ち込んで苛ついていたりすると、ジョシーからの叱責が飛んだ。
 
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 正直、日々叱責の嵐であった。人生でこれほど自分の言動にダメ出しを受けたことは始めてだ。自分の悪いところは多少は自覚はしていたが、どこかで自分にそれを許してしまっていた部分もある、例えば注意力散漫でぼんやりしていることや、物に対して雑なこと、すぐ悪い方向に考えて余計な心配をしてしまう所などなど、自分もまあ仕方ないと見逃し、他の人もまあそんなもんだよねと流してくれる部分を、ジョシーは決してそのままにしなかった。
「あなたは何もエンジョイしていない。」とか「ネガティブ・シンキングだ!」とか「いつも自分が正しいと思っている。」ちょっとした言葉使いに敏感に反応し、ガンガン指摘してくる。
 食器類を乱暴に扱いガチャンと音を立てただけで叱られる、理由はこうなのだ。「 何故そんなに物を乱暴に扱うんだ?あなたがそうやってものを扱うということは、身体に対しても同じだということ。そうすれば身体のハーモニーが損なわれるということが分からないのか?」
 無意識に使っていた言葉や動作の中に、これだけ自分の隠れた性格が現れていたと言う事なのね…胸にぐさぐさ突き刺さりますわ。
 でも、インドの食器はステンレスだから響くんですよ~!
 
 最初は単にジョシーが機嫌が悪くて怒っているのだと思い、お叱りを受ける度に腹が立った。口答えをすると「私は自分がヨガの先生に教わった同じや仕方であなたに教えているんだ、私の先生はもっと厳しかった。嫌なら出て行け!」といわれる。悔し涙を密かに流したことも数知れず。何故自分はこんなに気難しく、クレイジーなじいさんとケーララなんかに来てしまったのか、デリー辺りで買い物三昧して、もう帰ろうか...
 ジョシーはいつも「身体と呼吸と考え方、これらをひとつにするのがヨガなんだ。」と言っていたが、どうやら私は身体の悪い癖と共に、考え方の悪い癖も直されているらしい、と気がついたのは滞在2ヶ月あまり経った頃であった。
 
c0010791_1891768.jpg ヨガの聖典「ヨーガ・スートラ」にはヨガを学ぶ階梯として、ヨガの八支則と呼ばれる8つの項目をが挙げられている。ひとつ目はヤマ:してはならないこと、2つ目はニヤマ:すべきこと、3つ目アーサナ:これがいわゆるヨガのポーズ、4つ目プラーナヤーマ:呼吸法、5つ目プラティヤハーラ:5感を制御すること、6つ目ターラナ:集中、7つ目ティヤーナ:瞑想、8つ目にサマーディー:三昧となる。ヨガを勉強するとなると、ついアーサナやプラーナヤーマ、瞑想などを中心に考えてしまうが、土台となるのは実はヤマ、ニヤマと呼ばれる道徳的な心構えなのだ。これは簡単そうで難しい。その内容は非暴力、嘘をつかないこと、貪欲さを捨てる、盗まない人のものを欲しがらない、執着しない、清潔にする、満足する、自己鍛錬、教典の勉強、自己犠牲などが挙げられる。

 
 そう考えればこの田舎でのつつましく、静かな生活はまさに日々ヤマ、ニヤマの実践なのであった。姿勢を正され、バスに乗るために田舎道を日々歩き、質素できれいな食事を食べ、家の周りを掃除し、足ることを知り、あれこれしたいという執着を捨て、師を信頼する。 アーサナなら東京のヨガスタジオでも教えてもらえるが、日々の心構え、日常の細かい所作、食器を洗ったり、床を掃いたりすることにまで指導が及ぶ、生活そのものがヨガといった毎日はそうそう送れるものではない。
 
 そう思い直すとジョシーに対する感謝の念が改めて沸き上がってくるのだが、再び叱責を受ければそんなありがたさなど吹き飛び、また心の中でコンチクショーと叫んでしまう。
 まあ、こんな風に怒ってる師匠の話ばかり書き綴っているが、機嫌の良いときは底抜けにピースフルなのがジョシーの憎めないところだった。いくら怒っても時間が経てばけろりと忘れ、そのモードチェンジぶりがあまりに完璧なので、つられて自分も何事もなかったかのような気持ちにさせられてしまう。どんな言い争いをしても後には決してしこりを残さなかったから、何とか乗り越えてゆけたのだろう。
 やれやれ、身体の悪い癖を直すより、心の悪い癖を直すのはその数倍難しい。
by umiyuri21 | 2013-05-23 18:11 | ヨガ滞在記


旅とヨガとイラストレーション。世界と身体と脳内をめぐる旅。


by 若山ゆりこ

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