インディアン・ヨガライフ〜ケーララの村で暮らす vol.11

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インド人もびっくり
 
 日々付き合えば付き合うほど、ジョシー先生には驚かされた。
 今までインドを旅すれば大抵インド人の度を越したキャラクターにびっくりしたり、笑ったり、怒ったりすることが多々あったし、それが旅の楽しみでもあった。「ああ、やっぱりインド人は!」そう言ってしまえば、多少の嫌なことも笑って済ますことができる。しかし今回はインド人と一緒なのでそうはいかない。たまに、うっかり「だからインド人は...」などど口に出すと「インド人とか日本人とか男とか女とかそういうことで物事を判断するのはやめて欲しい。」とダメ出しを食らうだけだ。
 
 そもそも何処へ行っても一番目立って、一番変わっているのは我が師匠だったので、だんだん他のインド人が普通に見えてきた。そして師匠の奇行に時々ハラハラし、そんなことしたら周りのインド人があっけに取られちゃうよ、と要らぬ心配までしてしまう。
 何しろまず、風貌が変わっている。腰まである白髪のドレッドヘアーで、頭には常に日本の手ぬぐいを巻き、足は歩きやすからと日本の地下足袋を履いている。そして短パンにレギンス姿。ケーララの蒸し暑い気候の中で彼はいつも足を保護するためにレギンスを履いていて、そして汗ひとつかかない。「ジョシーさん、暑くないの?」と尋ねると「私は体温をコントロールできるから平気」と言うのだった。生来色白で、顔つきもあまりインド人らしくなく、そんな格好で、しかも日本人の私といるので100%インド人とは思われない。どこでも注目され、必ず英語で話しかけられ、するとジョシーも調子にのってずっと英語で外国人の振りをする。「どこから来たの?」と尋ねられ、たまに正直に「この街だよ」と言ってみても誰も信じない。
 時にはすれ違った女学生に奇異な目で見られヒソヒソと話の種になる。「ははは、あの子達私のこと怖い~って言ってるよ。髪の毛蛇みたいって」と言葉の分かるジョシーには筒抜けである。
 
c0010791_16212516.jpg  彼は全く周囲に対して遠慮と躊躇というものがなく、気持ちが乗ればどこででもヨガを披露するし、音楽がかかれば謎の暗黒舞踏×カタカリダンスを踊り始めた。周りのインド人は何だ何だとけったいな人物をジロジロ見つめるが、ジョシー先生は全くお構いなし。しかも大抵私にも同じ事をやれ!と言うのだ。
 常日頃から「心の垣根を取り払って自由になりなさい、垣根がなくなってこそ本当の愛が表現できる、ヨガは本来真に自由に生きるための知恵なんだよ。」とジョシーは私に言ったが、インド人の前でいきなり踊ったりヨガを披露するほど心臓は座ってない。すると彼は、ふう、とため息をつき、つぶやく。「あなたにはまだ心の垣根があるんだね。悲しいねえ」と。

 
 そんな困った要求に加え、事故の影響で時折彼の記憶の時空がねじれまくるのもさらに私を混乱させた。前述したが、彼はいまだ場所に関する記憶が安定しておらず、疲れてくると突然自分が何処に向かっているのか解らなくなる事があった。夜、オートに乗ろうとしていきなり「三軒茶屋に行きたいんだけど。」と、マラーヤラム語で話しかける、おいおいジョシーさんここインドだよ!と必死に思い出させる私。しかしオートの運転手も真面目な顔で「おいサンゲンチャヤって何処?」と周りの運転手に尋ねているのが笑ってしまったが。
 
 彼はまた、レストランの名前や場所を覚えるのも苦手であった。町に出ると「今日はどこか良いレストランに行こう!」と言い出す。「この町のレストランはもう大抵一度は行ってるよ。」と私。「いや、他にいい場所があるはず!」と人に尋ねて回るジョシー先生。そして辿り着く先は、すでに何度も行っているおなじみのレストランである。
 こんな事が毎度なので、私もこらえ性がなくなりつい不機嫌になってしまう。
 「ここ、前も来てるよ、あまり美味しくなかったじゃない!」しかし先生は動じない。「何故?前においしくなかったからといって、今日もおいしくないとは限らない、新しい気持ちで食べれば変わってくるかもしれないじゃないか。」
 すっかり疲れ果て「ジョシーさんって、本当に不思議の世界に住んでるんだねえ。」と言うと、「うん、こっちの世界は人が少なくて楽でいい。」と飄々と答えるのだった。

c0010791_1622048.jpg そうは言っても、彼が交通事故で負ったダメージを考えると、現在の回復度合いはやはり奇跡的であった。聞くところによれば、事故当初、意識が戻らず手術の出来ない右足が腐り始めてしまい、医者はこのままでは命まで危ないからと、切断を勧めたそうだ。
 なのに今では膝を深く曲げるポーズも数々こなし、歩く速度もほぼ私と変わらない、スタミナは私以上だ。彼は左右の足の長さが大分違っており、段差がある場所はつらそうであったが、どんなに歩いても決して「痛い」とか「疲れた」とか言う事はなかった。しかしこうして普通に歩くために、実はかなりのエネルギーと集中力を使っているのでは、と思うことがままあった。

 
 「事故に遭ったことは、私にとって本当に大きな学びだったよ。大学に入ったようなものさ。人が変わるには3つの要素が必要だ。呼吸、身体、心、この3つが変われば人間は自然に変わる。だから事故は完全に私を変えたんだ。まず当然身体が変わった。そして心、記憶が真っ白になってしまったからね。昔は電話番号だって全部頭に入ってたんだよ。右半身が壊れたから当然呼吸も今までど通りではない。でも、神様のやることにはきっと何か理由があるんだろう。今は私はハッピーだよ、だって悪い考えがひとつも頭に入らないんだから。」
 そんな風に言われるとちょっとホロリとしてしまい、やっぱり憎めなくなっちゃうんだよねえ。
 
by umiyuri21 | 2013-05-24 16:22 | ヨガ滞在記


旅とヨガとイラストレーション。世界と身体と脳内をめぐる旅。


by 若山ゆりこ

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