インディアン・ヨガライフ 第2ラウンド〜Vol.9 

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「心の筋トレ」

 そして、薬草は手に入らず、相変わらずのオイルマッサージとハンドヒーリングの手当が続く。傷はある時は大分乾いて回復しつつあるように見えても、ちょっと無理して歩いてズボンの裾が患部に当たって擦れたりすると、再び腫れてじくじくして、一進一退を繰り返している。ジョシーは毎朝起きると、必ず患部に自分で手を当てて、「良くなってきている、神様ありがとう」と言う。それを見て私は「う〜ん、全然良くなっているようには見えないな...」と心のなかでひとりごちる。うっかり、口に出して言ったらしかられるに決まってる。そう、相変わらず師を信頼出来ない、ダメな弟子なのであった。

 ジョシーと生活を共にすることは、私にとって心の筋トレそのものであった。彼の頑固さや、独自の哲学に従いつつ、同時に事故の後遺症による記憶障害のサポートをさり気なくする。しかし彼の場合、どこまでがヨガの修練の一環なのか、単なる物忘れなのか分からなくなるのが、クセモノであった。多分両方なのだろう。いずれにせよ、それは私にとって、それまでの生活で無意識に培ってきた生活習慣や考え方のあれこれを見直し、意識的に作り変えてゆく時間であった。神様は本当に不思議な先生と出会わせてくれたものだ。
 
 例えば、買い物ひとつとっても彼は予定通り行動することには全く興味がない。私の方は、なるべく無駄のないように効率的に行動して、一度の買い物で必要な物資をつつがなく買い揃えたいと考えている。
 しかし、自分の頭の中の計画にしたがって、せかせかと機械的に買い出しをしていると、必ず彼は不機嫌になるのだった。
 「このオートミールは、オーガニックなのか?」
 「いえ、オーガニックじゃないけど100%ナチュラルって書いてますよ。それにこの辺ではオーガニックのオートミールは手に入らないのです。だからいつもこれを買ってるじゃないですか。」
 「いや、だめだちゃんとしたオーガニックのオートミールを手に入れたい。探しに行こう!」
 とせっかく買った商品を返品して店を出る...。けれど今まで数ヶ月間、この辺に買い物に来ていて、オーガニックのオートミールなんて見たことないのだ。私にとっては不毛すぎるお店巡りが始まる。内心はイライラでブチ切れそうだ。このおっさん、今まで同じオートミールを文句も言わずに食べてたのに、一体どうなってるんだ?
 そして、結局というか当然、オーガニックのオートミールは手に入らず、また次回の機会にということになる。は〜・・・ただでさえ街を歩くだけで疲れるインドで、こういう無駄足は、かなりエネルギー持っていかれるのである。

 ある時は、いつも行っているお気に入りのレストランの前まで来て、「今日はもっといい店で食事がしたい」と突然言い出す。「新しい店を見つけよう」と歩き出すジョシー先生。そしてまた、人に尋ねながらあちこちとレストラン廻りをする。もちろん、この街のレストランについては、もう何度も探索して知り尽くしてはいるのだが、先生は涼しい顔だ。「きっといい店がある」と。
 そうして、何十分も歩いて、時には本当に今まで知らなかった新しいお店を発見することもあった。まあ、それほど美味しくはなかったんだが。

 そしてある日は、いつものバスに乗ろうとして支度をしていると、「今日は少し早く出よう」と突然言い出す先生。「でも、バスは1:45ですよ、それより早いバスはありません。結局歩くことになるから、体力が無駄ですよ。」と私。
 それでも、師匠の言うことには従わねばならない。しぶしぶ家を出て、道を歩いていると、す〜っと目の前に車が停まる。「おい、何処へ行くんだ?乗ってくか?」
彼の友人の車であった。そういうことが確かに何度もあった。
 そんな幸運に出会うと、それまでの不機嫌などさっぱり忘れて、感心する私。
「今日はラッキーだったね、こういう時のジョシーさんの直感すごいね。」
「うん、なんかねヴァイブレーション感じたの。」
 もちろん、毎回彼の直感が当たるわけではないのだが...

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 細かい例を上げていくと数知れずだが、悪く言えば超気まぐれ、あるいは医学的に言えば記憶障害。しかし、良く言えば「Everyday is new day」で、さらにヨガ的に言えば「今ここ」に生きているジョシー先生の生き様は、最初は振り回されて、ブチ切れること数知れずであったが、慣れてくれば学ぶ所は多かった。

 ヨガの聖典「ヨーガ・スートラ」にはこんな一節がある。
「記憶とは、過去に経験した対象が心の中に保たれることである。」
 私達は日々、今を生きているつもりでありながら、絶えず過去の記憶を呼び覚ましそれに比較して、現在を眺めている。
 今この瞬間のあるがままを見るのではなく、常に記憶というフィルターを通して歪めてしまう。記憶はいつも私達の「今」に干渉している。
 いつも買っているからと、同じ商品を機械的にかごに入れる。一度行ったレストランがおいしければ、そこに繰り返し行く。バスの時間が1:45なら何も考えないでその時間に家を出る。

 それは日常の雑事をストレスなくこなすには都合がいいが、そのおかげで私達は「今」起こっている事をちゃんと経験するのを忘れてしまう。生は繰り返しになり、退屈になる。今日は絶対に昨日とは同じではないのに、あたかも同じ日常が繰り返されているように感じてしまうのだ。

 確かに記憶が混乱しがちなジョシー先生ではあるが、だからと言って「また、忘れちゃったんだ。」「どうせ、覚えてないし。」とバカにしていると、しっぺ返しを食らう。道順やバスの時刻など絶対覚えてくれない先生をかばいつつ、いつも彼の言葉に注意深く耳を傾け、習慣や先入観に流されずに反応する。これはなかなかハードなトレーニングであった。

「ジョシーさんの行動は本当に読めないね。それに比べたら、自分がいかに過去の記憶に縛られて行動しているか、しみじみ分かります。」と言う私に、ジョシー先生は飄々と笑って答える。
「ははは、私のように行動するには訓練が必要なんだよ。あなたは、プランのない生活をしなさい。プランを立てなければ、人生に沿ったプランが自然に起こるから。」
 
 うん、なかなか深いお言葉。まあ、先生の場合、訓練なのか天然なのかは大分謎だけどね...。
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by umiyuri21 | 2014-05-15 23:05 | ヨガ滞在記


旅とヨガとイラストレーション。世界と身体と脳内をめぐる旅。


by 若山ゆりこ

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