インディアン・ヨガライフ 第2ラウンド〜Vol.15
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「シャンティ・バヴァン」
その夜はトミーさんの家に泊めてもらった。ショックがさめやらず、放心状態であ眠りに付いたが、翌日目が覚めると、平和な家庭の平和な朝の風景が目の前に広がっていた。
トミーさんの奥さんのジーナさんが、好物の米粉のパンケーキを作ってくれた、米粉の生地にココナッツと黒糖の餡をはさんで、バナナの葉に包んでプライパンで焼いた朝食メニューだ。
無事で静かな朝が迎えられた事を感謝した。
それでも、昨夜のトラウマはまだ去らず、どこかで大きな物音がしたり、ふいに低い男性の声が耳に入ると、びくっとして身が縮まった。
昨夜弟に拗じられた師匠の指は、大きく腫れ上がって曲がらなくなっていた。昨日は病院に行くと言っていたのに、今朝になると「骨は折れてない、自分の体のことは自分で分かる。病院に行ってX線なんか浴びたくない。」とまたいつものジョシー節。もう、足の傷に引き続き、ボロボロじゃないか、先生。
ゴールドショップを経営しているトミーさんの家は、「シャンティ・バヴァン」と名付けられ、広々とした庭に囲まれた瀟洒な住まいであった。家族はトミーさんと奥さん、子供は男の子2人と女の子1人、おじいちゃんの6人家族だが、家事を手伝う女性や庭師、店の従業員など、家には沢山の人が出入りして賑やかである。穏やかで地に足の着いた家族の日常がしみじみと心に染みた。
やることもないので、玄関先のテラスに坐って、本を読んだり、人々が立ち動く様子をぼんやりと眺める。今までケーララの普通の家庭に泊めていただく度に感じていたが、ここの女性たちは本当によく働く。どっちかといえば、ゆる目な男性の働きぶりから比べると、明らかに女性の方が過剰労働だ。
とにかく彼女たちは朝から晩まで台所に立っている。トミーさんの家でも、早朝6時位から奥さんが台所に立ち始める。まず、子供の朝食を用意し、お弁当を作り学校に行かせる支度、慌ただしく彼らを見送って、静かになったら大人の朝食タイム。子供用と大人用、年老いたおじいちゃん用に3種類の食事を用意している。
ケーララの朝ごはんはドーサやプットゥ、イドゥリ、プーリ、ウプマあたりが定番。どれも生地作って発酵させたり、こねて揚げたり、蒸したり、一枚ずつ焼いたりと、ひと手間かかるものばかり。これにチャナマサラやサンバル、蒸したバナナなどを添える。
トミーさんの家は、ジョシーの親しい友人だけあって、食事にはかなり気を使っており、野菜は近郊にある自分の畑で採れた無農薬もの。乳製品も庭で飼っている牛から絞ったもの、小麦は全粒粉、なるべく白砂糖ではなくブラウンシュガーを使っていた。アチャールやチャトニーも全て自家製だ。
そこまで気を使っている一方で、何故か子供の朝食には普通のシリアルやトーストを食べさせているのが不思議。なんで炎天下で置きっぱなしで大丈夫なパンなんか食べさせるのだ?!とツッコミたくなったが、子供がきっと好きなんだろうな。う〜ん、食の悪いグローバル化ってやつですね、これは。彼らが大人になる頃にはもう、こんな手の込んだ朝ごはんは作らなくなるのかもしれないなあ。
大人の朝食が一段落し、片付けが終わると、けっこういい時間になっている。トミーさんの家では朝食タイムの途中あたりに、お手伝いさんの女性がやってきて、平行して昼ごはんの準備が始まるのだった。片方がお昼の準備をしながら、一方が部屋の掃除をしたり、ずっと忙しく動き回っている。
ケーララではランチが一日のうちで一番大切な食事。大盛りのごはんと、汁気のあるカレー、ポリヤルやトーレンと呼ばれる汁のない野菜のおかずが2〜3品。これとアチャールやチャトニー、パパルが添えられる。お米を食べる前にチャパティが出てくる時もある。朝食後、仕事に出かけていたトミーさんも戻ってきて、家でお昼を食べる。
食事中にごはんやおかずのおかわりをサーブして回るのも女性の役目だ。南インドの昼食といえば、おかわり自由、食べ放題のミールスが有名であるが、食べ放題なのはレストランだけでなく家庭も同じ。おかずやご飯が少なくなってくると、もっと食べなさいと次々に盛ってくる。そんな訳で私が滞在中一番良く使ったマラーヤラム語は「マディ(もう充分です。)」という単語であった。それを言わないとエンドレスで盛りつけられてしまうのだ。
ケーララではみんなが一斉にテーブルを囲んで食事をするという習慣はなく、数人ずつが順番にテーブルに呼ばれてごはんを食べる。その間、ずっと女性たちはテーブルのまわりに立って、空いたお皿がないかチェックしてる。最初に食事に呼ばれるのは客人、次に男性陣、最後に女性たち。朝から台所に立ちっぱなしで、料理を作り続けた女性たちが一番最後に食べるってあんまりじゃないかって思うんだけどね。
お昼ご飯の片付けが終わったら、ようやく一息付ける時間だ。ランチの後のひとときはインドではお昼寝タイム。子どもたちが学校から帰ってくるまでしばしの休息を取る。
暑くて気怠い午後が過ぎ、強い日差しが傾きかける頃、再び人々は動き出す。5時すぎにはティータイムがあって、彼女たちはお茶請けにと、今度はバナナフライやココナッツ入りのドーナツを作ったりする。
涼しくなる夕方は朝と同じくスピリチュアルな時間だ、クリスチャンのトミーさんの家では夕方に家族で集まって短い礼拝の時間があった。おじいちゃんが祈りの言葉を読み、家族がそれに続く。
昼に比べて夕ごはんはごく軽く、時間も遅めだ。カンニと呼ばれるおかゆと、野菜のおかずがひと品、それにアチャール。もしくはチャパティとダル、ドーサとサンバルなどなど。普通に炊いた白米は夜食べない。食後はさっさとみんな寝てしまう。
日本と違って寝る前にシャワーは浴びない。夕食後のシャワーは消化に悪いと言われていて、水浴タイムは朝や夕方である。
とにかく、基本的に外食はせず、便利な惣菜屋が近所にあるわけでもなく、食事はみんな手作り。朝夕は粉物が多いし、昼はおかずを数種類作るから、調理に時間も手間もかかる。女性たちはホントに一日中台所で何か作ってる。そのせいか、インドの台所は日本よりもずっと広い。完全に独立した空間で、家によっては食材のストックルームと2部屋あったりする。そして、どんなに女性が忙しくしていても、男性はまったく台所仕事にはノータッチ、まさに男子厨房に入るべからず。子供や夫の世話をしながらの、女性たちのこの働きっぷりに、つくづく感心してしまう。
一応結婚はしているとはいっても、子供も居ないし、こうやってインドくんだりまでやって来て好き勝手に生きてる私などは、ホント申し訳ない気分になるわ...
さて、何とか修羅場を抜けだして、トミーさんの家に2日ほどお世話になった私達であるが、いつまでもここにお邪魔する訳にもいくまい。そうは言ってもノース・ヴェリヤナード村の家には帰りたくない。弟の顔はしばらく見たくもないし、今度また泥酔されたら何が起こるか分からない。危険過ぎる。
弟はアブダビ行きのVISA待ちで、半月後には出発するとは言っていたが、実際はいつになるのか分からない。私の滞在はあと一ヶ月半以上残っている、さて何処に行けばいいのか...
するとジョシー先生は突然言い出した。
「プラデープの家に行く。」
ええ〜?! だって2日前に知り合ったばかりだよ...でも、一応ゲストハウスだから部屋はあるし、お金を払えば泊めてくれるよね。大きい瞑想ホールもあってあそこでヨガも出来るよな。確かにいいかも...
「そうですね、じゃあ早速彼の所に電話してみましょう!」
「いいや、電話しなくていいよ、Just Go...! 泊まれなかったら必要ないってことだから。」
出た、また先生の水のごとし無計画人生。でも、まあ思い当たるのは今のところ彼の家しかない。トミーさんに事情を話し車で送ってもらうこと。で、再び荷物をカバンに詰めて、今度はプラデープの家へ、レッツゴー...!
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「シャンティ・バヴァン」
その夜はトミーさんの家に泊めてもらった。ショックがさめやらず、放心状態であ眠りに付いたが、翌日目が覚めると、平和な家庭の平和な朝の風景が目の前に広がっていた。
トミーさんの奥さんのジーナさんが、好物の米粉のパンケーキを作ってくれた、米粉の生地にココナッツと黒糖の餡をはさんで、バナナの葉に包んでプライパンで焼いた朝食メニューだ。
無事で静かな朝が迎えられた事を感謝した。
それでも、昨夜のトラウマはまだ去らず、どこかで大きな物音がしたり、ふいに低い男性の声が耳に入ると、びくっとして身が縮まった。
昨夜弟に拗じられた師匠の指は、大きく腫れ上がって曲がらなくなっていた。昨日は病院に行くと言っていたのに、今朝になると「骨は折れてない、自分の体のことは自分で分かる。病院に行ってX線なんか浴びたくない。」とまたいつものジョシー節。もう、足の傷に引き続き、ボロボロじゃないか、先生。
ゴールドショップを経営しているトミーさんの家は、「シャンティ・バヴァン」と名付けられ、広々とした庭に囲まれた瀟洒な住まいであった。家族はトミーさんと奥さん、子供は男の子2人と女の子1人、おじいちゃんの6人家族だが、家事を手伝う女性や庭師、店の従業員など、家には沢山の人が出入りして賑やかである。穏やかで地に足の着いた家族の日常がしみじみと心に染みた。
やることもないので、玄関先のテラスに坐って、本を読んだり、人々が立ち動く様子をぼんやりと眺める。今までケーララの普通の家庭に泊めていただく度に感じていたが、ここの女性たちは本当によく働く。どっちかといえば、ゆる目な男性の働きぶりから比べると、明らかに女性の方が過剰労働だ。
とにかく彼女たちは朝から晩まで台所に立っている。トミーさんの家でも、早朝6時位から奥さんが台所に立ち始める。まず、子供の朝食を用意し、お弁当を作り学校に行かせる支度、慌ただしく彼らを見送って、静かになったら大人の朝食タイム。子供用と大人用、年老いたおじいちゃん用に3種類の食事を用意している。
ケーララの朝ごはんはドーサやプットゥ、イドゥリ、プーリ、ウプマあたりが定番。どれも生地作って発酵させたり、こねて揚げたり、蒸したり、一枚ずつ焼いたりと、ひと手間かかるものばかり。これにチャナマサラやサンバル、蒸したバナナなどを添える。
トミーさんの家は、ジョシーの親しい友人だけあって、食事にはかなり気を使っており、野菜は近郊にある自分の畑で採れた無農薬もの。乳製品も庭で飼っている牛から絞ったもの、小麦は全粒粉、なるべく白砂糖ではなくブラウンシュガーを使っていた。アチャールやチャトニーも全て自家製だ。
そこまで気を使っている一方で、何故か子供の朝食には普通のシリアルやトーストを食べさせているのが不思議。なんで炎天下で置きっぱなしで大丈夫なパンなんか食べさせるのだ?!とツッコミたくなったが、子供がきっと好きなんだろうな。う〜ん、食の悪いグローバル化ってやつですね、これは。彼らが大人になる頃にはもう、こんな手の込んだ朝ごはんは作らなくなるのかもしれないなあ。
大人の朝食が一段落し、片付けが終わると、けっこういい時間になっている。トミーさんの家では朝食タイムの途中あたりに、お手伝いさんの女性がやってきて、平行して昼ごはんの準備が始まるのだった。片方がお昼の準備をしながら、一方が部屋の掃除をしたり、ずっと忙しく動き回っている。
ケーララではランチが一日のうちで一番大切な食事。大盛りのごはんと、汁気のあるカレー、ポリヤルやトーレンと呼ばれる汁のない野菜のおかずが2〜3品。これとアチャールやチャトニー、パパルが添えられる。お米を食べる前にチャパティが出てくる時もある。朝食後、仕事に出かけていたトミーさんも戻ってきて、家でお昼を食べる。
食事中にごはんやおかずのおかわりをサーブして回るのも女性の役目だ。南インドの昼食といえば、おかわり自由、食べ放題のミールスが有名であるが、食べ放題なのはレストランだけでなく家庭も同じ。おかずやご飯が少なくなってくると、もっと食べなさいと次々に盛ってくる。そんな訳で私が滞在中一番良く使ったマラーヤラム語は「マディ(もう充分です。)」という単語であった。それを言わないとエンドレスで盛りつけられてしまうのだ。
ケーララではみんなが一斉にテーブルを囲んで食事をするという習慣はなく、数人ずつが順番にテーブルに呼ばれてごはんを食べる。その間、ずっと女性たちはテーブルのまわりに立って、空いたお皿がないかチェックしてる。最初に食事に呼ばれるのは客人、次に男性陣、最後に女性たち。朝から台所に立ちっぱなしで、料理を作り続けた女性たちが一番最後に食べるってあんまりじゃないかって思うんだけどね。
お昼ご飯の片付けが終わったら、ようやく一息付ける時間だ。ランチの後のひとときはインドではお昼寝タイム。子どもたちが学校から帰ってくるまでしばしの休息を取る。
暑くて気怠い午後が過ぎ、強い日差しが傾きかける頃、再び人々は動き出す。5時すぎにはティータイムがあって、彼女たちはお茶請けにと、今度はバナナフライやココナッツ入りのドーナツを作ったりする。
涼しくなる夕方は朝と同じくスピリチュアルな時間だ、クリスチャンのトミーさんの家では夕方に家族で集まって短い礼拝の時間があった。おじいちゃんが祈りの言葉を読み、家族がそれに続く。
昼に比べて夕ごはんはごく軽く、時間も遅めだ。カンニと呼ばれるおかゆと、野菜のおかずがひと品、それにアチャール。もしくはチャパティとダル、ドーサとサンバルなどなど。普通に炊いた白米は夜食べない。食後はさっさとみんな寝てしまう。
日本と違って寝る前にシャワーは浴びない。夕食後のシャワーは消化に悪いと言われていて、水浴タイムは朝や夕方である。
とにかく、基本的に外食はせず、便利な惣菜屋が近所にあるわけでもなく、食事はみんな手作り。朝夕は粉物が多いし、昼はおかずを数種類作るから、調理に時間も手間もかかる。女性たちはホントに一日中台所で何か作ってる。そのせいか、インドの台所は日本よりもずっと広い。完全に独立した空間で、家によっては食材のストックルームと2部屋あったりする。そして、どんなに女性が忙しくしていても、男性はまったく台所仕事にはノータッチ、まさに男子厨房に入るべからず。子供や夫の世話をしながらの、女性たちのこの働きっぷりに、つくづく感心してしまう。
一応結婚はしているとはいっても、子供も居ないし、こうやってインドくんだりまでやって来て好き勝手に生きてる私などは、ホント申し訳ない気分になるわ...
さて、何とか修羅場を抜けだして、トミーさんの家に2日ほどお世話になった私達であるが、いつまでもここにお邪魔する訳にもいくまい。そうは言ってもノース・ヴェリヤナード村の家には帰りたくない。弟の顔はしばらく見たくもないし、今度また泥酔されたら何が起こるか分からない。危険過ぎる。
弟はアブダビ行きのVISA待ちで、半月後には出発するとは言っていたが、実際はいつになるのか分からない。私の滞在はあと一ヶ月半以上残っている、さて何処に行けばいいのか...
するとジョシー先生は突然言い出した。
「プラデープの家に行く。」
ええ〜?! だって2日前に知り合ったばかりだよ...でも、一応ゲストハウスだから部屋はあるし、お金を払えば泊めてくれるよね。大きい瞑想ホールもあってあそこでヨガも出来るよな。確かにいいかも...
「そうですね、じゃあ早速彼の所に電話してみましょう!」
「いいや、電話しなくていいよ、Just Go...! 泊まれなかったら必要ないってことだから。」
出た、また先生の水のごとし無計画人生。でも、まあ思い当たるのは今のところ彼の家しかない。トミーさんに事情を話し車で送ってもらうこと。で、再び荷物をカバンに詰めて、今度はプラデープの家へ、レッツゴー...!
by umiyuri21
| 2014-05-23 22:49
| ヨガ滞在記
瞑想やヨガ、インド占星術、創作活動、日々の暮らしや旅など、色々綴っております。基本的に長文です。
by Yuriko
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