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インディアン・ヨガライフ 第2ラウンド~Vol.17

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「 テンプルの隣で 」

 「アナント・ウェルネス・リトリート」に居を移してから、生活のモードはガラリと変わった。ここのすぐ隣には、女神を祀る「モンコンプ・バガバティ・テンプル」が建っていた。この付近では結構有名な寺院らしい、遠くからも参拝客を集め、願掛けのプージャ(儀式)は数カ月前から予約が必要らしい。霊験あらたかな寺院の持つパワフルなエネルギーが、辺り一帯に満ちていた。
 寺院からは一日中、朝は4時半ごろから音楽やマントラが聞こえてきた。近所にサンスクリットを学ぶ学校もあるらしく、子どもたちのマントラを朗唱する声がそれに重なる。時折別の家から神を讃歌する、バジャンを歌う声が耳に届くこともある。

 ジョシーの家はクリスチャンだったし、親戚に聖職者が多く、教会や修道院にはしょっちゅう足を運んでいたが、逆にインドに居るのにヒンドゥー文化に触れる機会があまりなかったのだ。ちなみにケーララではインドの他州と違って、異教徒がヒンドゥー教の寺院に入ることは出来ない。
 師匠も小さな頃からヨガやヒンドゥー文化に興味を持ってはいたものの、寺院に入れてもらえず、悲しい思いをしたことがあったとか。インド人であってもクリスチャン・ソサエティの中でヨギとして生きるのは、かなり異質な事なのだ。ケーララでの生活が長くなるにつれ、それが段々と分かってきた。

 だからこそ、この寺院周辺の独特の宗教的な雰囲気は、私にはとても新鮮だった。プラデープ一家も敬虔なヒンドゥー教徒で朝夕には庭を掃き清め、プージャをしオイルランプに火を灯し、子どもたちにマントラやプラーナと呼ばれる聖典の一部を暗記させたりしている。
 毎日日没前に、寺院では神殿に祀られているご神体を開帳するらしく、その時刻に鐘の音が聞こえてきたら、手を休めて、掃除や水浴などはしないで欲しいと言われた。
 彼らの家から、寺院へ抜ける細道には蛇神を祀る小さな像が点々と並んでいた。夕方になるとオイルランプが灯され、怪しく不思議な空気が漂っていた。夜間は、村人は怖がってその道を通らないそうだ。女性の生理時も通行は避けたほうが良いと言う。近所の周りを散策すると、同じような蛇神を祀る像が、至る所に祀られていた。
 キリスト教と共産党勢力が強いケーララ州は一見とてもリベラルな雰囲気なのだが、一方では古いヒンドゥー文化を今も保持する、保守的な側面も併せ持っているのだとか。そうしたケーララ文化の古層の香りを私はここに来てはじめて垣間見る事ができた。

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 生活はかなり快適だった。何もしなくてもおいしくてヘルシーな食事が3度きちっと食べられる。わざわざ買い物に行く必要もないし、ジョシーの足の治療中はあまりあるかない方がいいと言われていたので、ほとんど出かけることもなく、ヨガをする以外は日がな一日、本を読んだりすっかりリラックスモードになってしまった。生活の雑用に煩わされなくなったので、師匠も気難しい事を言わなくなったし、何よりずっと気がかりだった足の治療も進んでいる。

 話し好きのプラデープからアーユルヴェーダやインドの精神世界の話を聞くのも楽しかった。とにかく彼は放っておくと休みなく、延々話し続けるのだ。早口すぎて半分くらいしか分からなかったが、それでも彼の話は興味深かった。
「アーユルヴェーダの理論はまず脇に置いて、自分の必要な食べ物が自分で分かるようになりなさい。食べ物の声が聴こえるようになること、それが大切なんだ。その為にまず食生活をシンプルにする必要があるんだよ。
 あなた自身がマスターで、あなたを癒やすのはあなた自身なんだ。そのうち、どうやって自分の身体を癒すのか分かってくるようになるよ。」
「瞑想のプラクティスなんて必要ないんだ。あなたがあなた自身である時、そこに瞑想が起こる。目を開けていようと、閉じていようと。」

 彼の話はジョシーの哲学とかなり呼応するところが多かった。どちらかと言えば、
細かい説明を好まない師匠のやり方を、まるでプラデープが補足してくれるように感じることもあった。
 何よりも嬉しかったのは、彼が事故後に出会ったジョシーの友人であり、何でもこなせた素敵なヨガマスターだった事故前のジョシーではなく、事故でハンディキャップを持ってしまった現在の彼の生き様を認め、リスペクトしていることであった。

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 師匠は自分のヨガ歴のアーカイブをほとんど保管していないのだが、唯一Indiavideo.orgというサイトで7,8年前の彼のヨガの映像を見ることができた。これを彼はとても気に入っていて、見る度にゴキゲンになった。「あの、完璧なアーサナをする男は誰だろう?あれは自分なんだ、と思うとびっりするよ。私は彼が大好きだなあ。」
 なんともストレートな自画自賛だ...
ここに来てすぐに、早速プラデープにもそのビデオを見せたのだが、師匠のしなやかで力強いアーサナにしきりと感心しつつも、数日後、彼はさらりと私に言った。
「ジョシーは肉体的には多くを失ったのかもしれないが、事故を経て彼の精神は成熟している。彼にはもはや完璧なアーサナは必要ない。だから、あなたにとって彼から学ぶのはとても良いことだと思うよ。」
 
 あ~何だかその言葉、救われるなあ。
 前回と合わせてケーララに滞在して既に8ヶ月、そんな事を言ってくれる人に出会ったのは初めてだ。これまで知り合うのはジョシーの古い友人ばかりだったし、親戚や姉弟は現在の彼をなかなか受け入れられずにいる。特にこの所何かと風当たりの強い事が多かったので、天使の一言にさえ思えてくる。
by umiyuri21 | 2014-05-28 23:01 | ヨガ滞在記


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