インディアン・ヨガライフ 第2ラウンド〜Vol.19

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 「邂逅」

すっかりこの家とモンコンプの空気が気に入って、勝手に長逗留を決め込んだ私たちは、一度ノースヴェリヤナードの家に戻って荷物を取ってくることにした。鍵は弟が持っているので、仕方なく一度連絡をし、荷物を取りに帰りたいと伝える。
 私としてはもう帰国までここに滞在しても良い位の気分であった。大きなスーツケースごと持って行きたかったし、ジョシーと2人きりで戻ってまた喧嘩になるのが嫌だったので、プラデープに一緒に車で付いてきてもらうことにした。
 弟はあの時の暴れっぷりなどすっかりなかったかのように、愛想の良い顔で、ともかく兄の足の治療が進んでいる事を喜んでくれたが、突然現れたこのアーユルヴェーダのドクターがどんな人物であるか興味津々だった。

 我々が荷物を詰めている間に、二人はずっと話をしていたが、マラーヤラム語の会話の合間に挟まる英語で、ジョシーの事故について話しているらしいと察しがついた。物忘れが酷いとか、人を信用しないとか、何もかも自分勝手だとか、どうせ余計なことを吹きこんでいるんだろう。
 師匠は事故の話をする時も、記憶障害が残っていることは決して人には言わなかった。肉体的なハンディキャップは受け入れられても、記憶の障害は多分受け入れたくなかったのだろう。「私は必要ないことはもう覚えるのをやめたんだ。」とよく私にも強がって言うのだった。
 事故後のジョシーを認めてくれているとはいえ、プラデープがどこまで、彼の記憶の欠落について察していたか、私には分からない。ジョシーは注意深く隠していたし、私も危なくなるとフォローしていたので、今の弟の話を聞いて、彼が引いてしまうのではとドキドキした。

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荷物をプラデープの車に運び込み、いざ出発しようというところで、急にジョシーがトイレに行きたいと家に戻り、いつまでたっても戻ってこないので、その間にも弟は私に、何のかんのと彼の悪口を英語で言う。まあ、色々とストレスが溜まっているのだろうけど...
 「やれやれ、あいつのスローペースにも困ったもんだよ。ほらいつも持っている白いカバン、彼は絶対にあれを手放さない。トイレに行く時も持っていく。人を全然信用してないんだ。あれは彼のエゴだ。」「今まで絶対にどんな治療も受けたがらなかった。」「奇妙な振る舞いばかりする。」などなど...
私は肩をすくめ、そっとプラデープに聞いた。
 「そうなんです、彼のハンディキャップは足だけじゃない。記憶障害もアーユルヴェーダで治療できるんでしょうか?」
 「後で説明するよ。」と彼は答える。


  プラデープの家に戻って、しばらくすると彼は言った。
「誰が何と言おうと、確かなことは一つだけ、その人がハッピーであるかどうかだよ。ジョシーはハッピーでリラックスしてるよ。彼はこのままでいいんだ。でも、彼の弟は幸せそうじゃない。スピリチュアルな事について色々語ってくれたけど、表面的なものだ。メンタルな治療が必要なのは弟の方だと思うよ。」
 そして、私の目をじっと見て続けた。

「ほら、あのヨガのビデオがあるだろ。あの後、もう一度彼の映像を見たんだ。その時思ったよ、この男はもう死んでしまっていない、このアーサナをしている彼は事故で死んだんだよ。今の彼は別の人間だ。
 ビデオに映る彼の目を見ていると、何かを強く求めていて、それがすぐそばにあるのに近づけない、そんな目をしている。まるで恋人が隣の部屋に居るのが分かってるのにドアを開くことが出来ずにいる、そんな風に感じたんだ。」
「彼は事故に遭ったのかな、それとも事故が起こったのかな。」 

 急に深い言葉を投げかけられて私はハッとした。

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 「このアーサナをしている男、彼はもう死んだんだよ。」  
 はっきり言われると、目の覚める思いがした。
 何度も書いているが、私は事故後のジョシーしか知らないにも関わらず、いつもどこかで、彼が少しでも事故前の彼に近づいてくれたらという気持ちを拭い去ることができなかった。
 昔の彼の話を他人から聞く度に、いつの日か、かつてのように色んなアーサナが出来るようになって欲しい、できれば記憶の障害もなくなって、元の素敵なヨガマスターになってくれたら...と。
 多分、私だけでなく、彼のまわりにいる人々、特に姉弟たちは皆そう願っているのだろう。
 
 そんな中できっぱりと「事故の前の彼はもう居ない。」そうであっても「彼はこのままでいい。」そこまで言われると、ぐずぐずと、わだかまっていた迷いが消し飛んだ。
 ああ、そうか。彼は一度事故で死んで生き返って来たんだから、これはもう彼の新しい人生なんだ。まわりにいる私達がその事を受け入れないと、ジョシーだって新しい人生を始められないんだ。
 私が過去に囚われ、曇った目のままでいる限り、何も正しくは見極わめられない。そもそも、自分の師に対してこうあって欲しいとか、悪いとか、弟子の私が一体どんな判断が下せるのだろう。
 
 「マスターと神と自分、これは本来一つのものだ。マスターを信頼すればあなた自身も、そしてマスターもピュアになっていく。反対にあなたがマスターを騙したり疑ったりすれば、マスター自身にも同じことが起こるんだよ。」
 「ヨガっていうのは本当は簡単じゃない。一番簡単なのはアーサナだ。だから本にはアーサナの事しか書いてないのさ。」
 
 似たセリフ、ジョシー先生からも聞いたなあ。私はプラデープの洞察の鋭さに感じ入った。出会った当初は、話し好きのスピリチュアルマニアのインド人くらいにしか思っていなかったのだが、何だか不思議な人だ。
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by umiyuri21 | 2014-05-29 21:55 | ヨガ滞在記


旅とヨガとイラストレーション。世界と身体と脳内をめぐる旅。


by 若山ゆりこ

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