インディアン・ヨガライフ 第2ラウンド~Vol.20

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「乳製品バトル!」

 ケーララの気候は2月が終わる頃にはだんだんと蒸し暑さを増してきた。そんな中、朝夕のヨガの合間に、プラデープと日々スピリチュアル談義をしながら、私達はのんびりと過ごしていた。 
 南インドの気候についてはよく、「Hot,Hotter,Hottest」と表現されるが、暑い中でも朝夕は涼しく日陰は過ごしやすい、単なる「暑い」から、「より暑い」気候になると、肌に密着している全てのものが、暑さを増幅させる。薄く風通しの良いコットンのインドブラウスが必須。Tシャツでさえも暑くるしい。日差しは焼けるようで、日傘なしではつらい。ちょっと外出すれば汗だくになる。地元の人でさえ、暑さの増す午後はあまり出歩きたがらない。風通しの良いテラスに坐って、だらだらおしゃべりするのが丁度良いのだ。
 
 基本的にプラデープが一方的に話し続け、私が時々質問をする。しかし私が凡庸な質問の仕方をすると、ふっと馬鹿にしたように笑うのだった。
 例えば、「日本人は...」とか「女性は...」とか既成概念に則った言葉を発すると「日本人というのは誰なんだ?」と畳み掛けてくる。
「私というのは誰だ?あなたが私と言う時、それは何処から発している?」
「心には特定の居場所があるのか?」などなど。
本当にインド人というのは、こういう形而上学的な命題を延々と何千年も考えて来た人たちなんだよなあ。あ、また「インド人は...」って言っちゃったけど。

 ジョシー先生は基本的には黙ったまま、プラデープの言うことに頷いたり補足するだけで、あまり口出しはしなかった。しかしある時、猛烈なバトルが始まった。それは食事に関することであった。
 この家で、只だらだらしているのも悪いので、せっかくの機会にと、私は1週間のアーユルヴェーダのトリートメントを受けることにした。プラデープはそのカウンセリングをしてくれたのだが、私のヴァータのバランスを整えるために、乳製品、特にギーを取るべきだと提案したのが発端だった。
 それと合わせて、毎朝必ず実践しているクンジャラ・クリヤー(ぬるま湯を大量に飲んで吐き出す浄化法)をトリートメント中は控えて欲しいと言われたのも、ジョシー先生は気に入らなかったらしい。

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 アーユルヴェーダとヨガは近い関係にあるが、必ずしも全てがリンクする訳ではない。ヨガは心身を浄化し、深い瞑想ができるようになって、いずれはサマーディーという目的地に至るためのプラクティスなのである。まあ、壮大で果てしない道のりだが、はるか彼方にはそういう終着点がある訳だ。
 ジョシー先生の考えでは、ヨギたるもの自分の心身は自分でコントロールできるのが理想で、なるべくなら外的な薬や治療などには頼りたくない、というのが本音であった。だから自分の傷の治療もなかなか受けなかったし、私がアーユルヴェーダのトリートメントを受けることも、あまり賛成ではなかったのだ。

  アーユルヴェーダは人間が健やかで幸福であることが目的の伝統医療で、その一環としてアーサナや瞑想が取り入れられるが、それ自体はスピリチュアルなエンライトメントが目的ではない。
「スピリチュアルに生きたい人も、社会的な成功を求めている人も、健康が大切なのは共通している。」とプラデープは説明してくれたが、アーユルヴェーダは万人に必要とされる健康を目指している。だから必ずしも食肉は否定されないし、何よりもインドのヴェジタリアンは乳製品を積極的に取る。

 ヨガの修練で何故菜食が奨励されるかと言えば、不殺生という観点からと、インド哲学のグナという考え方に依っている。グナとはエネルギーの3つの状態を指し、サットヴァ(純粋)、ラジャス(躍動、情熱、変化過程)、タマス(暗さ、無気力)、この3つの性質が世界のあらゆる存在の中に息づき、バランスを保っている。
 当然、食べ物もこの3つのグナに分類され、身体に取り込んだグナの性質は、そのまま人間に影響を及ぼすと考えられている。
 だからこそ、新鮮な野菜や果物、そして乳製品、無添加の食物など、サットヴァ(純粋)の質を持つ食事を取ることで、その人自身もサットヴァに近づき、身体が浄化され、心が安定し、ヨガのプラクティスがしやすくなるという訳だ。
 ちなみに、全ての野菜がサットヴァの性質を持つわけではなく、玉ねぎやにんにくはタマスの質を持つので、インドのより厳格なヴェジタリアンは、これを避ける。

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 かの大聖者のラマナ・マハルシも精神修養をしてゆく上での菜食は勧めているが、乳製品を取ることは否定していない。
 「家畜として飼われている牛は、子牛が必要とする以上のミルクを生み出し、それを絞ってもらうことで喜ぶのです。」と語っている。

 ジョシー先生が乳製品を取らないヴィーガンを長年続けている理由は、実は日本のマクロバイオティックの考え方に影響を受けているのだ。若いころ呼吸器系の問題で、ヨガの先生に乳製品を止める事を勧められたという事情と、20代に日本のマクロビに出会った事で、30代ごろから彼は一切乳製品を取らなくなったという。
 
  マクロバイオティックも基本的には宗教とは無関係で、人間が健康に生きるための
食養生術である。万物の性質は陰と陽から成り、そのバランスが健康状態を作ると考えられている。
  マクロビが動物性の食べ物を避ける理由は、陽の性質を持つ人間は陰の性質を持つ植物を食べるほうが中庸になり、バランスが良くなるとの理論からだ。また、生産、加工過程で化学的に処理されてしまうのも、動物性の食品を避ける理由の一つとなっている。
 私はよく師匠に、ヨガの考え方では乳製品は問題ないのに、食べないのは何故なんだと尋ねたのだが、「良いピュアな餌を食べて育った牛のミルクならいいけれど、今の乳牛はどんな餌を食べて育ってるか分からない。だから絶対だめ。」とピシャリとはねつけられた。 

 マクロビだけではなく、日本では乳製品は体に悪い説が最近はメジャーなので、スタバでカフェラテを豆乳に切り替える人も少なくないが、インドのヴェジタリアンにとっては乳製品は貴重な栄養源、アーユルヴェーダ的にもヴァータのバランスを整え、身体を力強く健やかにし、特にギーは脳の働きを良くするとも言われてる。だから、インドで乳製品なしの生活を貫くのは簡単ではない。豆乳なんてほとんど売ってないし、誰も知らない。
 アーユルヴァーダとヨガとマクロビ、似ているようでこれらの食養哲学は微妙に違う。ジョシー先生はヨガのヴェジタリアンの考え方をベースに、マクロビを取り入れているので、かなり難易度が高いんである。

 そんな経緯でジョシーとプラデープはこの乳製品を取るべきか否かという問題で真っ向からぶつかった。基本的に大インド主義者のプラデープはマクロビなどと言う新しいメソッドより、歴史の古いアーユルヴェーダの方が正しい、と譲らない。
 論争は途中からマラーヤラム語に切り替わり、内容が全く分からなくなったが、かなり激しい言い争いになってきて、私は冷や汗ものだった。また師匠がへそを曲げて出て行く、なんて言い出したら困りモノだ。
 私が困った顔で見ているので、プラデープは笑って「大丈夫だよ、私達はディベートを楽しんでいるだけだから。」とは言っていたが、決着は着かず、途中から二人共黙りこくってしまった。

 そして夕食の時間になっても、二人の様子がおかしい。ジョシー先生はぼんやり黙ったまま、一言も話さない。私が何か言っても、答えずじっと宙を見ているばかりだ。怒っているのか、興奮したのがきっかけで、ちょっと不安定になっているのか分からない。一方プラデープの方は、自分のグルジへの愛情を、急にとつとつを話し始め。一人で陶酔したような表情になってきた。

 あれ~...この人達何か変だぞ、大丈夫か...?!
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by umiyuri21 | 2014-05-30 22:49


旅とヨガとイラストレーション。世界と身体と脳内をめぐる旅。


by 若山ゆりこ

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