インディアン・ヨガライフ 第2ラウンド~Vol.25

「聞きなさい、それは生命のない丘としてそびえ立っている。その活動は人間の理解をはるかに超えた神秘だ。私が無知だった少年の頃から、アルナーチャラは私の心のうちに驚くべき荘厳なものとして輝き続けていた。だが、アルナーチャラとティルバンナーマライが同じだと人から知らされたときでさえ、私はその意味をはっきり理解していなかった。それは私を惹きつけ、心を静まらせた。そして近づいたとき、それが不動のままで立ちはだかっているのを私は見たのだ。」
ラマナ・マハルシ / アルナーチャラへの8連の詩

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「シヴァの山」

さて、いよいよティルバンナマライへ出発である。夕方5時頃、アレッピーへ抜ける幹線道路に立って、チェンナイ行きのバスを待つ。ちなみに、バスチケットの購入はネットで行い、予約番号も座席表もすべて携帯のSMSでのやりとりになる。携帯を持っていない人はチケットが買えないので、プラデープの従兄弟が我々の代わりに買ってくれた。
 彼はその為わざわざ、私達と一緒にバスを待ってくれる。待ちながらもコンダクターと電話でマメに連絡を取り、今バスはこの辺を走ってるらしいと伝えてくれる。もう、携帯を持たない我々は完全にインドのデジタル化から爪弾きにされてる感じ。

 20分も待つとバスが現れ、従兄弟に別れを告げてバスに乗り込む。家から歩いてここまで来てすぐバスに乗れるんだから随分便利だなあ。
 座席は140度くらいまではリクライニングが効く、快適な座席であった。乗客もそれほど多くはない。このまま一晩眠れば、早朝にはヴェロールに着いている。
 しばらくすると、インドの長距離バス恒例映画の上映が始まった。ケーララで制作されたマラーヤラム映画で、キリスト教の尼僧と神父が主人公だ。今まで現地で映画は観たことがなかったので、見るともなしに見始めた。
 陰謀に巻き込まれやむなく聖職を辞した尼僧と神父が診療所の医者と看護婦になって働き始める。というちょっとケーララらしいストーリー。二人は自然に恋に落ち、子供を身ごもり、幸せな日々を送る...という所までは良かったが、後半は再び陰謀に巻き込まれ、敵方に妊婦の妻がお腹を銃で撃ちぬかれて虐殺される。という陰惨な展開に、復讐に狂った元神父の医者は、武器を持って敵討。敵をめった殺しにした後、一人残された小さな子供に、神様助けて下さい!と言われて、自分が神父だったことをはたと思い出し号泣...というあまりに重苦しいストーリーであった。
 なんだ、これは...救いようがなさ過ぎる...インド映画らしいカタルシスが全くないではないか!

 ケーララに過ごして数ヶ月、私は少しづつ、ケーララ人は他のインド人に比べて、何気に暗い人々なのでは、と感じ始めていた。カメラを向けても嫌がってむっつりする大人が多いし、マーケットで買い物に行っても、外国人に興味があるというよりは言葉の分からない面倒くさい奴、という扱いをされる、しかし真面目で誠実で、オートのドライバーもあまりぼったくらない。こういう事は、北インドでは決して起こらない。センシティブでちょっと人見知り。感情を内側に溜め込んでいて、何かきっかけがあると急に爆発する。(例えば酒とか...)なんとなくちょっと日本人っぽい。
 そう、ケーララと日本は共通項が多い。識字率が高いこと、そして自殺率も高いこと、湿った水の多い気候、木造の家屋、アルコール好き。
 だいたい、こんな地味で悲惨な映画、ヒンディー語のボリウッドじゃ絶対あり得ないし、わざわざ暗い映画を選んで、バスの中で上映しようなんて、陽気なラージャスタンあたりの人なら考えもしないだろうな。
 観ただけでどっと重い気持ちになってしまった...

c0010791_21482100.jpg 上映が終わると、車内は静まり返り、私もいつの間にか眠っていた。うとうとしながら気がつくと、すでにバスは隣のタミール・ナードゥ州に入り、空はうっすらと明るくなり始めていた。

  ほんの隣の州ではあるが、タミル州とケーララ州は景色も随分違う、西ガーツ山脈が西からの雨を遮るため、風景は乾燥し、ゴツゴツした岩山が遠くに見える。空の色もカラリと澄んでいる。
  早朝6時過ぎにヴェロールの幹線道路上で私達はポイと車から降ろされた。オートに乗ってバスターミナルまで行くが、ケーララと比べて料金が2割位高い。バスターミナルのトイレに入ると、信じられないくらい沢山の蚊が、トイレ中を飛び回っていて、卒倒しそうになった。
ラージさんに「タミル・ナードゥは衛生状態悪いから気をつけてね。」と言われたのを思い出した。あちこちに、野良牛もウロウロしている。(ケーララにはいない)山一つ越えて隣州に来ただけで随分雰囲気が違うんだなあ。

 その違いは、ティルバンナマライ行きのローカルバスに乗り込むと確実になった。中距離バスにも関わらず、デカイテレビ画面が2台も設置され、そこでコテコテのタミル映画を爆音で上映していたからだ。カタギのお嬢様と恋に落ちた、マフィアのボスが繰り広げるアクション映画。とにかく特撮、効果音バキバキで、しょっちゅうヒュンヒュン言わせてオーバーアクションだし、何かっていうと群舞で踊り始めるし。昨日のド暗いマラーヤラム映画と対照的過ぎる。
 バスはガタゴトと田園地帯を走ってゆく、緑の水田が広がり、椰子や棕櫚の木が点在する向こうに、むき出しの岩山が霞んで見える。一つ一つの家もケーララの家屋に比べると小さい。
 やがて、頂上が美しく尖った、シンプルで存在感に満ちた山が視界に飛び込んできた。その裾野に町が広がる。
 おお、あれがアルナーチャラだ!ティルバンナマライだ!

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「ラマナ・マハルシの伝記/アーサー・オズボーン著」という本によると、アルナーチャラはインドの最も古く、最も神聖な聖地の一つだという。ラマナ・マハルシはアルナーチャラが地球のハートであり、世界の霊的中心であるとまで宣言した。シュリー・シャンカラ(インドの哲学者)はアルナーチャラを須弥山(古代インドの及び仏教の世界観で、世界の中心にそびえるという高山)として語り、「スカンダ・プラーナ」という聖典では「聖地の中で最も神聖な地がアルナーチャラである。それは世界のハートである。それをシヴァ神の聖なる神秘のハートセンターだと知りなさい」と述べている。
 ともかく、ただ事ではない山なのだ。
 
 その高さは820メートルほどで山というよりは、丘のようである。左右対称の均整のとれた佇まいは、威厳に満ちただならぬ気配で、荒涼とした大地にすくっとそびえる佇まいは、自然のピラミッドのようでもある。ジョシーは山を見ると静かに手を合わせて、頭を下げたので、私も習ってそうしてみる。ようやく、ここまで辿り着いたのだ。
 バスは2時間半ほどでティルバンナマライのバスターミナルに到着し、私達はそこで降ろされた。

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 旅は極めて順調で、随分スムーズにここまで着いてしまった。まだ時間は午後9時すぎ。まずはラマナ・アシュラムへ行き部屋があるか確認してみよう。
 オートに乗って、やや町外れにあるアシュラムへは60ルピーと言われる。ケーララだと60ルピーも出せばかなり遠くまで行けるのだが、なんだか40ルピーくらいの距離を走っただけでアシュラムまで着いてしまった。やっぱり、オート代高いなあ。
 「シュリ・ラマナアシュラム」と書かれたアーチの前には、サドゥのような行者や物乞いの人々が座り込み、訪れる人にお布施を求める手を伸ばす。インドらしい風景ではあるが、ケーララではあまり見かけない眺めであった。

 門をくぐると、脇に靴を脱ぐ場所があり、ここから先はすべて裸足で行動する。広々とした庭が広がり、大きな木が涼し気な影を落とし、犬たちが気持ちよさそうに寝そべっている。遠くにアルナーチャラが見え、沢山の巡礼者が行き来していた。
 入り口近くの事務所に入り、挨拶をして尋ねてみる。
「先日メールしたんですが、部屋は空いてないでしょうか?」
「部屋の確認書は持ってる?」
「いえ、空いてないと言われたので、直接来てみました。ここに1週間滞在したいんですが、キャンセルなど出てませんか?」
「それは不可能だね!ここはいつも人で一杯なんだ。3週間後まで空きはない。外のゲストハウスを当たりなさい。」
 取り付くシマもなく追い出された。何だかちょっと冷たいな...
仕方ない、町中のゲストハウスを当たってみよう。
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by umiyuri21 | 2014-06-09 21:52 | ヨガ滞在記


旅とヨガとイラストレーション。世界と身体と脳内をめぐる旅。


by 若山ゆりこ

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