インディアン・ヨガライフ 第2ラウンド〜Vol.26

「「私」という想念が絶対にないところ、それが真我である。それは沈黙と呼ばれる。真我そのものが世界であり、「真我」そのものが「私」であり、真我そのものが神である。すべてはシヴァ、真我である。」 ラマナ・マハルシ

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「沈黙のアシュラム」


 ラマナ・アシュラムには空きがなかったので、私達は外に出て一般のゲストハウスをあたってみることにした。改めて辺りを見回すと、インド人だけでなく、外国人の巡礼者たちが沢山いる。日本人らしき顔の人々もちらほら。こんなに外国人ツーリストの多い場所に来たのは、師匠とのヨガ合宿以来初めてのことだ。
 少し歩くと、チベット人のやっている「リトル・チベット」というカフェを見つけた。おお、こんなツーリスト用のカフェまであるんだ。随分とここは観光地なんだなあ。久々にインド料理以外の食事ありつけそうだ。
 「お腹が空いた、ここで朝ごはんを食べよう。」
とジョシー先生が言うので、入ってみる。

 メニューはインドのツーリスト・カフェおなじみのパンケーキやミューズリー、トーストやクロワッサンなどがずらっと並んいる。ノース・ヴェリヤナード村の周辺では決して食べられないものばかりだ。早る気持ちを抑えつつ、メニューを熟読する。
この町は聖地なので、メニューは基本的にヴェジタリアンだが、ほとんどが乳製品を使用している。なあんだ、クロワッサンもパンケーキも全部NGじゃん。
 「私達はヨーグルトもミルクも、ギーも食べないのです、何か食べられるものはありますか?」とウェイターに訴えると「じゃがいものパラタなら大丈夫。」と言われ、パラタのセットメニューを注文する。結局のところインド料理だった...
チャイも飲めないから、ジンジャーティーに変えてもらって120ルピーなり。うん、やっぱりツーリスト・プライスだな。ケーララでドーサと飲み物頼んだって50ルピーでお釣りくるもんな。

 カフェには、白いコットンのクルタパジャマに身を包んだ西洋人男性の先客がいて、私達のやりとりを聞いていたらしく、ふと目があった。
「ゴタゴタ言ってすまんね、ヴィーガンだと食べられるものがなくて大変なんだ。」
とジョシー先生は彼に言う。
「いやいや、僕も昔はヴィーガンを試したけど、難しくてやめちゃったよ。大変なのはよく分かるよ。」
「国は何処?」
「ロンドンから来たんだ」
 という具合に会話が始まった。その後、度々似たシーンを目にすることになるのだが、ジョシー先生は彼なりに何か気になる人がいると、物怖じのかけらもなく積極的に話しかけ、いつのかにか仲良くなってしまう。
 若い頃は映画のプロデューサーをやってたとかナガランドで校長先生だったとか、カナダでレストランをやっていたとか昔のネタには困らないので、大抵話しかけられた相手は興味をもつ。私なんかは、そうやって昔の話を吹かす程に、そのうち記憶の辻褄が合わなくなったり、時空を超えたぶっ飛び展開になるんじゃないかと、ちょっとドキドキして聞いているのだが。
 しかし、彼らはすっかり話がはずんで、色々と宿泊施設の情報や、ラマナ・アシュラム周辺事情を教えてもらう。
 この町にはやはり、今までの自分の生活をすべて捨てて、スピリチュアルに生きようと移住してきた外国人が多く住み着いているのだとか。
 移住とまではいかなくとも、長期滞在者が多く、ルームレントもけっこうあるらしい。近所の地図を丁寧に描いてくれ、その上いつの間にか食事代まで払ってくれた。
 慌ててお金を払おうとすると「大したお金じゃないよ。インドは物価が安いから、奢るのだって気楽なもんさ。」と静かに去っていった。
 
 このイギリス人男性もそうだったが、ラマナ・アシュラム周辺ですれ違う西洋人旅行者は、印象的な目をしている人が多かった。何というのだろう、本当に穏やかで、静かで、とても東洋的な目なのだ。日本のお坊さんみたいなのだ。アジア人は割合、こういう目をしている人を見かけるけれど、(特に年配者なんかは)こんなに静かな目の西洋人には、あまり出会ったことがない。瞑想を長くしていると、自然とこういう目になってくるのかなあ。
 カフェを出て、さらに少し歩くが、ルームレントはピンと来る部屋がなく、教えてもらった別団体のアシュラムも満室だった。ともかく早く落ち着き先を確保したいと、焦る気持ちを見透かすように、師匠は言った。
 「まずは、先生に挨拶しようじゃないか。それからの方がきっといい部屋が見つかるよ。」と、

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 そして再びラマナ・アシュラムへ。靴を脱いで敷地を進むと、トラヴィダ型建築の建物が目に入る。手前が、マハリシが死の直前に説教をしていた、ニューホール、続いて彼の母の墓石の上に建てられたマトルブーテーシュワラ寺院、その奥に、マハリシの墓石があるサマディー・ホールと繋がっている。
 時刻はちょうどお昼を過ぎたばかりで、午後の開館は2時からのようだ。巡礼者がホールのまわりに坐って待っていた。私達も坐ってそれを待つ。白いドーティーを身にまとった若いインド人の巡礼者と目が会い、ジョシーは何やらアイコンタクトしていた。若者は身振り手振りで私は話ができない、と説明する。どうやら沈黙の行をしているらしい。

 マハルシは生前からあまり多くを語らない聖者であった。いくつかの説法集は残されているが、むしろ彼は言葉よりも言葉を超えた「沈黙」を通じて伝えられる教えを大切にしていた。彼が「沈黙の聖者」と呼ばれる所以である。 

  「深い瞑想は永遠の会話である。沈黙は絶えざる会話であり、「言語」の絶えざる流れである。それはしゃべることにより妨げられる。話し言葉はこの無言の「言語」を妨げるからである。講義は、何時間かの間そこにいつ人々を楽しませるが、その人達を進歩させはしない。沈黙はつかの間のものではなく、永遠のものであり、全人類に利益をもたらす...」(ラマナ・マハルシの教え)
 
 だから、グル亡き後すでに60年以上経っても、ラマナ・アシュラムはいつも凛とした静寂が保たれていた。一日の内に、1時間ほどの朗読会と、午後のヴェーダの詠唱、夕方のチャンティングなどがあるものの、その他の時間は、訪問者はただ静かに時を過ごす。人々はみな言葉少なく、大声で笑ったり騒いだりする人はいない。

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 午後2時になり、係の人がガタガタと扉を開く、まだ誰もいないサマディーホールに足を踏み入れる。広い大理石のホールの奥に柱に囲まれた神殿があり、その中央にマハリシの遺体が埋葬された墓石、その上にシヴァ神の象徴であるリンガムが配置されている。巡礼者たちはまずこの神殿の前に立ち、手を合わせ、ある者はひれ伏し、そして墓石の周りを回る。脇の壁には大きく引き伸ばされたマハルシの写真が並んでいた。

 圧倒的なエネルギーであった。なんと形容していいのか。やっとここに来られたという、うれしさと、その場の強いエネルギーに打たれてしまった。墓石の前でひれ伏し、神殿の周りを回ったあと、ホールの脇にただ黙って座っていると、感極まって涙が溢れて止まらなくなってしまった。
 この感覚は何なのだろう。何だかよく分からないけれど、この場所に在る何かに、ものすごく心を揺さぶられてしまったのだ。体の隅々までじわじわと染み渡ってくるその強い何かに。
 直感的にこれが愛なんだ、と感じた。ただ広がりそこに在る、愛のエネルギーなんだ。急に、勝手に孤立し、意固地になって、怒りや悲しみを心に溜め込んできた、自分の愚かさをしみじみと感じた。「ごめんなさい」と言って私が泣いていた。今まで忘れていてごめんなさい。いつも忘れていてごめんなさい。愛というものをすっかり忘れて生きてしまって。本当にごめんなさい。

 ふと横を見ると、ジョシー先生は静かに黙々とヨガを始めていた。人々が物珍しそうに見ていても、全く気にしない。さすがに私は真似できなかった。その後も足繁くこのホールに通ったが、ここでヨガをやっている人はジョシー先生以外見かけたことはなかった。
 ああ、この人は本当にヨガが好きなんだと、しみじみ思う。この身体でヨガをやる、それがこの人にとっての愛であり、祈りなんだなあ。

 1時間ほどそこにいただろうか、まだ坐っていたかったが、宿を探さねばなるまい。
「ジョシーさんは、今何を感じてましたか?」
すっかり感動して、胸が一杯になっている私は、師匠からも何か神秘的な言葉を期待して尋ねてみた。
「う〜ん、先生と話したよ。ここにはもう来ても来なくてもいいって。」 
「ええ〜...それはどういう意味でしょうか?もう何回も来てるから?」
「分からない、そうかもしれない。」

 再びアシュラムを出て、宿探しに向かおうとする私をジョシー先生は引き止める。
「もうお昼を随分過ぎてる、何か食べたい。何処か良いレストランを探しに行こう!」
 え〜マジですか...それより早く部屋探しましょうよ。
「大丈夫、心配しないで。泊まるところは見つかるから!」 

はいはい...ヨガの旅はまだ始まったばかりですね。
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by umiyuri21 | 2014-06-11 21:44 | ヨガ滞在記


旅とヨガとイラストレーション。世界と身体と脳内をめぐる旅。


by 若山ゆりこ

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