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インディアン・ヨガライフ 第2ラウンド〜Vol.33

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「 帰国の前に」

 帰国まで、あと1週間ちょっと。もう充分色んな事をやった。何が何だか分からぬうちに5ヶ月が経っていた前回の滞在に比べて、今回は激動であった。もう、今回やるべき事はやりきった、という感じ。後は日本へのおみやげを買って、アーサナの復習でもしてゆったり過ごそう。

 やっぱりティルバンナマライへの旅はジョシー先生には何気に大変だったのだろうか、帰ってきてから師匠はちょっとお疲れの様子であった。ぼんやりしている事が多く、あまり話をしてくれない。
 日本へのお土産を買うために、コッタヤムというチャンガナチェリーより少し先の町へ出かけた。山岳地帯への交通の要所となっている町で、アレッピーよりも都会、インドの無印良品「Fab India」の店舗があった。
そこが、この付近で私の欲しいものが売っている唯一の店であった。本当はケーララならではの服を着たいのだが、何故か購買意欲のそそられるものがほとんど売っていないのだ。サルワール・カミーズのデザインも地味だし、インドチックでキッチュな雑貨類などと言うものも、全く見かけない。
 そんな訳で、ケーララに居ても買い物はもっぱらこの「Fab India」ばっかり。いろんなデザインの服が、サイズごとに山積みになっているこの店、その山の中からお気に入りを探しだすのが楽しみの一つであった。以前、服のデザイナーをしていたこともあると言うジョシー先生はこの山の中から、良い服を見つけ出すのが何気に上手だった。コーディネイトのセンスもあって、日本人の私では無難に落ち着きがちなセレクトに、一つひねったアドバイスを加えてくれて、随分助けられた。
 ところが、今回はこの店に来ても、先生は疲れた様子で、椅子にぼ〜っと坐って居眠りをしている。

 結局私が日本に帰ったら、ジョシー先生はあの家で一人で暮らすことになる。今は一応弟がいるが、彼もいずれは湾岸に働きに行くことになっている。アレッピーに住む妹とは相変わらずギクシャクしている。果たして大丈夫なんだろうか。家の人達はジョシーはヨギで、昔から山に籠もって修行生活したいと言っていたくらいだから、丁度いい機会だろうと考えているらしい。私も気がかりではあったが、だからといってどうすることも出来ない。帰国を前に、ケーララを離れる寂しさと、先生の行く末が心に引っかかる。

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 ケーララは酷暑期へ向けて、日々蒸し暑さが増していた。何もする気が起きず、昼間は動かずについついごろりと横になってしまう。
 ある日、朝食後の自由時間に昼寝をしていたら、外でバイクの音がした。見ると庭先にアシシュとプラデープの姿。急いで出迎える。
 「何か飲みますか?」と尋ねると「まず水を下さい。」と言われて困ってしまった。
 
 ここに戻ってきて以来井戸の水が茶色に濁って、微かに匂うようになってきていた。私もそのままは飲みたくないので必ず沸かして、お茶にして飲むようにしていたのだった。ミネラル・ウォーターの買い置きもないし、困ったな。それでも、水が欲しいというので、あまりいい水じゃないけど...と戸惑いつつ手渡す。
 プラデープがジョシーと話したそうだったので、アシシュと一緒に外に出て家の周りを案内し、運河の脇に腰を下ろした。
 「ここは本当に静かでいいところだね、僕の休暇ももうすぐ終わりだ。ムンバイの生活が待ってるよ。」
 聞く所によると、アシシュは友人の紹介でプラデープの事を知り、クンダリーニ・ヨガを学ぶために彼の元に弟子入りしたのだそうだ。プラデープがクンダリーニ・ヨガを修練していた事は知っていたが、そんなに達人だったのか...?
 そういえば、彼が以前面白いことを言っていた。
「ケーララはインド亜大陸のムーラダーラ・チャクラ(生殖器に位置する第一チャクラのこと)だからケーララは昔から優れたクンダリーニ・タントラ・ヨギを沢山生み出して来たんだよ。私もそうしたヨガを学んできた。」
「タントラは誤解されているけれど、ヨガの神秘主義的な側面にすぎない、あなたも時が来たら学べるかもしれないけどね。」

 タントラという言葉は確かに誤解されているが、言葉を訳せば「テクニック」という意味である。抽象的に頭の中で思索するのではなく、世界の仕組み、人間の身体を知り、それと積極的に関わりながら、覚醒を目指す実践的な方法論だ。だからアーユルヴェーダや占星術、武術、そしてハタ・ヨーガもみんなタントラの流れから生まれてきたと言われている。
 私も以前から、身体や自然への深い理解や愛情を失わない、ジョシーのヨガ哲学にいわゆるストイックなヨガとは違う何かを感じていたのだった。ケーララは豊かな自然を持ち、同時にカラリパヤットというインド最古の武術、そしてアーユルヴェーダ、その姉妹とも言われるシッダ医学など、身体に密着した技法が今も豊かに保存されている場所である。そこで育まれるヨガも、身体を超越して高みを目指すというよりは、身体を無視することなく、それを乗り物にして飛翔するタントリックな思想が発達しても不思議はない。 

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 「プラデープは僕のグルジだよ。私もようやく師に全てを委ねて、手放すことを学び始めた。でも、混乱しているよ。」とアシシュが言った。
 「私もいつも、ジョシーに怒られるよ。すっと自分の状況をコントロールしようとする癖をつけてきてしまったから。私にとってコントロールしないというのはとっても大変なことなの。」
 「何故?流れるように自由に浮かんでいればいいじゃないか。この川のようにね。
世界とダンスすればいい、何も考えないでコントロールなんかしないで、そうだろう?」
 まあ、口で言うのは簡単だ。でも、日本で生きてきた私よりも、たとえ多忙なムンバイのビジネスマンであっても、先日の大雨の過ごし方といい、インド人の方がその辺の委ね方はきっと心得ているんだろうな。インドが訪れる人を魅了する懐の広さを持っているのは、人々の人生に対する委ね方、リラックスの仕方にあるのかもしれない。

 アシシュとしばらく話をした後、家に戻ると、プラデープにいきなり言われた。
「気をつけなさい。不必要なファンや電気を点けっぱなしにしているのはヨガじゃない。それに水を出した時、左手で渡したのも良くないな。(インドでは左手は不浄の手とされる。)それにグラスも汚れてたよ。そういうこと一つ一つに気がつくのがヨガなんだよ。さっき、トレイの上に集まってきたアリを拭っていたけど、不必要なアリまで殺すことはない。」

 うわ、まじかよ〜。ジョシー先生にもしょっちゅう言われてたけど、細かい〜!
ちょっと、凹んでしまった。最後の最後に振り出しに戻って、ピシャリと言われた感じ...。一応言い訳すると、ファンを点けっぱなしにしてたのは、昼寝してていきなりやって来たので焦ったことと、水の状態が良くなかったのでグラスを手渡す時もちょっと上の空だった。まあ、どんな事があってもその全てにアウェアネスしてろってことなんだな。
 はあ、ヨガの道は厳しいです。秘儀的なタントラの奥義やら、サマーディーの境地なんてはるか彼方の世界だよなあ。てか、結局私って全然ヨガに向いてないんじゃないの?
 柔軟な身体と、ゆったりとした心、そして深い呼吸、どんな事にも気がついて心を配れる注意深さ。そんなスーパーマンみたいな人間になれないってば。
 プラデープ達が帰った後、そうジョシーに愚痴ると、こんな答えが帰ってきた。
「私はすべての人がヨギとして生活すべきだと思っているよ。」
 
 そうか、確かにね...そうだとした私達の世界は本当に美しいものになるだろう。
 それがきっと、ヨガの八支則でいうところの、一段目と二段目、ヤマ(禁戒)とニヤマ(勧戒)の段階なんだろうな。そこがキチンと身につくまで、私は一体どれだけダメ出し食らうんだろうか....(ため息)
by umiyuri21 | 2014-07-24 23:21 | ヨガ滞在記


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