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ヴィパッサナー瞑想日記 その5: Day9~10

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瞑想に慣れてくると、もうラストの10日目までは、ほとんどストレスも感じませんでした。 
 最初は窮屈に感じた無言の共同生活も、いつの間にかそれぞれのリズムができて、シャワールームも洗面台も混雑することなく、使い分けるようになっていました。そうなると、あと数日でこの静けさが破られてしまうのが名残惜しく、もっと坐っていたいなあ、次はいつ来ようか、などどいう余計な渇望さえ生まれてきます。

ヴィパッサナー瞑想の指導は、最初は体の感覚をゆっくり頭から爪先まで、スポットを当てるように動かしてゆき、だんだん広い範囲を一度に感じ、最終的にはひとつの流れとして感じるようにと進んでゆきます。自由な流れを感じられるようになると、エネルギーが身体を広がって、フローしてゆくその様がとても心地よく感じられてきます。まるで、エネルギーのマッサージを自分でしているようです。いい具合に流れを感じられる時は、とても心地よく、集中は簡単です。しかし同時に、その感覚をもう一度、もっと強く、もっと長く、という執着が生まれてくるのも、注意のしどころです。

 良い感覚は、自分的には大歓迎なので、逆に嫌な感覚よりも距離を取るのが難しいのでした。単純に気持ちよく、「おお~なんかいい感じ!」とうっとり流れに浸っていることが、果たして正しい瞑想なのかも、よく分かりません。何だか修行っぽくないけど、これでいいのかしら...?ということで先生に質問してみることにしました。

この10日間コースには、全体を統括する指導者がいますが、あくまでも中心はゴエンカ氏による音声の指導と講話で、ホールで皆が坐る様を見守っている先生が前面に立つことはありません。今回の指導者はクリスさんという、外国人の先生でした。日本語があまり達者でないせいか、余計な事は話さず、いつも穏やかな顔で、皆を見守っているっている感じです。

 コース中は基本的に会話は禁じられていますが、お昼と夜の時間に先生に質問できる時間があります。実は私は5日目くらいに強い身体の痛みとネガティブな感情に襲われた時にも、一度質問してみました。
 「痛みを観察すれば去る、と言っていますが全く去りません。観察するより、身体を動かしたほうが、明らかに痛みは去ると身体は知っているので、言うことをききませんどうしたらいいでしょう?」
 そうすると、先生は微笑んで「呼吸に意識を戻して、ただ観察しなさい。痛みや感情に意識を向けすぎてはいけません。」と言うだけなのでした。ええ、それだけ?と内心不満でしたが、後で考えれば、どんなことが起こっても観察する、それこそが修練なのですから、まあ、それしかないわけですよ。

 では、良い感覚が起こった時はどうなのでしょう?
「感覚の自由な流れを感じられる時は、単純に心地よく、集中も簡単です。でも、それに浸っていることは、瞑想のやり方として正しいことですか?それとも違っていますか?」

 「それがあくまで身体の内側にとどまっているうちは大丈夫です。でも、それに執着しないように、全ては来ては去ってゆく、そのことを決して忘れてはいけません。」とのことでした。

 心地よさが現れた時に、それを感じるなという訳ではないことにちょっとホッとしました。
 痛みやネガティブな感情が去ってゆくのは、嬉しい事ですが。心地良さや、深い瞑想、静寂の境地を手放すのは、難しいことです。しかし、どちらも来ては去ってゆく。そういう意味ではこの両者には違いはないのです。

「どんな事が起こるかは重要ではありません。どんなことが起こってもただ明晰に、平静に観察すること、それが大事なのです。」とゴエンカ氏が指導の中でしつこく、しつこく繰り返していたように、全てのことが変化する、ただ起きて、去ってゆく。
 その摂理を、10日間籠もって、繰り返し瞑想し深いレベルにまで浸透させる。
 これは様々な事が起こる人生という荒波を、平静な心で乗り切るためのワークなのでした。ゴエンカ氏が講話の中でこの瞑想法を「心の手術」言っていたわけがようやく納得できました。

瞑想合宿は10日間ありますが、沈黙が保たれるのは10日目の昼前までです。最終日の午前中には「メッター」という感謝と慈悲の瞑想があり、内側に集中してきた意識を、自分の周囲へと、世界へと、向けてゆき、慈愛のエネルギーを広げます。

 ここがけっこう大泣き所、と聞いていたのですが、私はゴエンカ氏の「ピィィィィ~ス、アンド、ラァァァァ~~~ヴ...」という、インド訛りの独特のスピーチが可笑しくて、あんまり集中できませんでした。(苦笑)
 このメッターの瞑想が終わると、沈黙が溶けます。おしゃべりを許された最後の半日が、現実社会へ戻る前のクッション期間として機能するのです。

 そっとそっと積み上げてきた積み木が、ガタガタと倒れるように、言葉の波が空間を襲います。最初は恐る恐る話し、次の瞬間にはもうおしゃべりが止まりません。
 あんなに静かだったセンターが一気に賑やかになりました。瞑想中、いつも耳に届いて癒やされていた、うぐいすや鳶の声が、あっという間に遠くへ行ってしまいました。風の声も、雲の流れももう深く感じることはできません。
 それはちょっと悲しいことでしたが、ともかく明日から現実の社会に適応してゆくために、感覚を元通りにしなければなりません。そのためにも瞑想仲間と交流して体験をシェア出来るのは、同時にありがたい事でもありました。

  翌朝、チャンティングとメッターの瞑想を終えて、朝食をとって、センターを自分たちで清掃すると、とうとう帰宅の時間です。日常生活が待っています。日曜日の京葉線は混んでいて、なんだか海外旅行から帰ってきたばかりのような浦島太郎の気分を味わいます。耳が遠いような、音声がまとまりにくいような変な感じ、頭がぼーっとして、夢の中にいるようです。

 そして今、コースから戻って、すでに2週間以上がたとうとしています。
 さて、私は一体何かが変わったのでしょうか?

 コース中は普段とは全く違う環境に置かれるため、いわば半分トランス状態のようになり、意識の状態も変わってきます。しかし、日常に戻れば、それを維持するのは難しく、また元の生活が戻ってきます。
 帰宅以来、夜明けの瞑想で出会った、美しい静寂を忘れたくなくて、できるだけ朝早くに起きて瞑想するようにしました。しかし、あのしんとして研ぎ澄まされた感覚は、日々削り取られるように薄れていきました。
 
 最初に期待していた「深い瞑想に入れる」ようになったどうか、よく分かりません。ただ、1時間の瞑想が以前より楽に出来るようになったのは確かなようです。
 それは瞑想する時の心構えが少し変わったせいかもしれません。今までは、深い瞑想に入りたい、集中できるようになりたいという想いを、多少なりとも抱いていましたが、今はともかく1時間瞑想してみよう、そこで何が起こるか見てみよう、という気持ちで坐るようになりました。 
 
 その日の瞑想が、雑念や眠気に襲われっぱなしであっても、まあそれはそれでいいやと、思えるようになりました。その心持ちは日々の生活にも染みこんできます。
 もちろん、心はいつも聞き分けの良い子ではありません。嫌なことは嫌だし、素敵なことには執着します。でも、そういう状態に気がついた時、ふと呼吸に意識を向けて、全ては来ては去ってゆく、と感じてみます。すると、肩の力が抜けて、抱えていた重荷が軽くなります。心の静けさが少し戻ってくるのです。

 結局のところ、それが私にとって、小さなしかし劇的な心の変化でした。

 瞑想の体験はとてもプライベートなものです。出会うことは人それぞれ様々で、これが正解ということもありません。ですから、この文章もごくごく個人的な体験談として読んでください。
 そしてもしも、コースに参加してみたいという気持ちが起こったら、12日間の休みをとって、トライしてみてください。そこでどんな事が起こっても、期待したことが起こらなくても、多くの発見があるはずです。

 最後まで読んでくれてどうもありがとう。
 全ての生きとし生けるものが平和で幸せでありますように。
by umiyuri21 | 2015-06-10 13:13 | ヨガ


瞑想やヨガ、インド占星術、創作活動、日々の暮らしや旅など、色々綴っております。基本的に長文です。


by Yuriko

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